長尺のドキュメンタリー映像を仕上げるため、Sさんは編集スタジオに泊まり込み、連日徹夜の作業に追われていた。フロア全体の明かりは落とされ、窓の外は真っ暗。手元のモニターの光だけが、血走った目を青白く照らしていた。
意識が朦朧とする中、Sさんは素材サーバーから未編集の生データである重いフッテージクリップを次々とローカルのタイムラインに読み込んでいった。
「そろそろ、切り上げて仮眠をとるか」
呟きながら、読み込んだばかりのクリップのプレビューを再生した。現地へ赴いたカメラマンが、現地の風景やインタビュー素材を撮影したはずの映像だった。
しかし、モニターに映し出されたのは、現地の景色などではなかった。
そこに淡々と記録されていたのは、まさに今、Sさんが座っているこの編集デスクと、背中を丸めてディスプレイに向かってマウスを動かしているSさん自身を、斜め背後から捉えた定点カメラの映像だった。
画面の中のSさんは、疲弊しきった顔で淡々と作業を続けている。だが、映像のなかの時計やPCのステータスバーを見ると、今の時刻とは微妙にズレている。何よりも気味が悪いのは、室内にそんな定点カメラなど設置した覚えはなく、そもそも誰がこんなアングルで自分を撮影し、それがなぜ未編集の素材データとしてサーバーに残っているのかという、道理の通らない事実そのものだった。
「…は?」
思考がフリーズした。首筋から背中にかけて、一気に冷たいものが駆け抜ける。
混乱しながらも、外部カメラによる監視のイタズラなのだろうかと頭を巡らせたが、このスタジオの厳重なセキュリティを考えればありえないことだった。
恐怖に駆られ、Sさんは慌ててプレビューの停止ボタンを押そうとマウスに手を伸ばしたその時。
画面の中の「映像に映っている自分」が、ふと作業の手を止め、ゆっくりと首を曲げ、こちら(つまり今、自分が座っている背後)を振り返るようにぎこちなく顔を向けた。
生暖かい夜気の中、ゾッとするような悪寒を覚えながら、Sさんはその場でPCの電源コードを力任せに引き抜き、暗闇のなかを逃げ出すようにフロアを飛び出したという。



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