【怪談】誰も触れていないスコープの数値が狂い出し、プレビューの人物の顔が生気のない土気色に変色していった現象

2026年9月23日水曜日

00 PC・IT・映像関連の怪談

t f B! P L

 自宅のスタジオで、Aさんは一人、映画のカラーグレーディング作業に没頭していた。シネマカメラで撮影された重厚な映像のトーンを整えるため、専用のグレーディングソフトを立ち上げ、モニタに向かって細かくパラメータを調整していく。


夜が深まるにつれ、部屋の明かりは落とされ、頼りはデスクの上のキーボードバックライトと、正確な色を映し出すキャリブレーション済みのモニター画面だけになっていた。


作業が終盤に差し掛かった頃だった。

なんとなく違和感を覚え、Aさんは手を止めた。


画面の端に表示されている、肌のトーンや色相バランスを確認するためのウェーブフォームやベクトルスコープの数値が、マウスやコントローラーに触れていないにもかかわらず、わずかに、しかし規則性を無視してパタパタと上下し始めている。


「ん? スコープが暴れてるか?」


接触不良を疑いながら、Aさんはビデオプロセッサやノードの設定画面に視線を移した。

すると画面上のカラーホイールのパラメータが、まるで目に見えない誰かの指に回されているかのように、勝手にクルクルと回転し始めていた。

それに連動するように、タイムラインの映像全体の色温度が、みるみるうちに異常なほどの低温、すなわち冷たい青みへと傾いていく。


「おい待て…なんだこれ」


冷や汗が背筋を伝った。慌ててメインのプレビュー画面に目をやると、そこに映る登場人物たちの様子が一変していた。

画面の中の人物たちは、先ほどまで自然な血色をしていたはずだ。しかし、色温度が異常に落ちた映像の中で、彼らの顔だけが生気のない土気色に変色している。さらに気味が悪いことに、解像度の高すぎる映像の隅で、その口元だけが不気味に歪み、見えないカメラに向かってねっとりと笑っているように見えた。


触ってもいないパラメータが動き、映像のなかだけが勝手に変質していく。


Aさんは反射的にプロジェクトを保存せず、メインの電源ケーブルを引き抜こうと手を伸ばした。


その瞬間、部屋の隅で、パキリ、と乾いた音が聞こえた。

背後を確かめたが誰もいない。


電源を落としたモニタの黒い画面には、青白く冷え切った部屋の中で固まっているAさん自身の姿だけが、静かに反射していたという。


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